漁師や魚屋など魚う扱う職業や、釣り人の間では「活締め」や「神経抜き」という言葉はよく聞きます。
これまでは一般的にはあまり聞かなかった言葉ですが、最近はグルメな方の間でも・・・
「美味しい魚は活〆だ!神経抜きだ!」と浸透しているようです。
そんな活締めや神経抜きについて、ちょっと書いてみたいと思います。
魚が死んでから、腐敗するまでを遅らせる!?
魚は(というか魚に限らず生き物は)、死ぬといずれ腐敗します。
その間にも、様々な過程があります。
①死んですぐは生きているときと変わらない体
②しばらくすると死後硬直がはじまりカチコチに
③死後硬直が解け、柔らかく
④腐敗が始まる
こんな具合で変化していくのですがそのスピードは魚の種類によってまちまちです。
よく「鯖は足が早い」とかいうのは、この過程の進行スピードが速い、という意味です。
さて本題ですが・・・
この①から④のスピードを遅くするのが「血抜き」で、生きているうちに行うので「活〆」と言ったりします。
そして①から②の進行スピードを遅くするのが最近人気の?「神経抜き」という訳です。
血抜きは基本。神経抜きは、魚種によりけり。
血液は、酸素が行き届かなくなると、つまり死ぬと固まって黒くなります。
そしてこの古くなった血は、細菌が繁殖しやすく腐敗の温床になります。
だから、血を抜くことで腐敗を遅らせることができるのですが、前述したように死んで酸素がなくなると血は固まってしまいますので、心臓が動いているうちに血を抜く必要があるのです。
手順としては・・・
一般的な中型以上の魚の場合は、暴れないように頭を手鉤で打ち抜いた後、手早くエラの動脈を切り、心臓の力で血を抜きます。
アジやサバなど小型の場合は、首を折ることで行ったりします。
カサゴなど中にはほとんど血が出ないため血抜きをしない魚もありますが、基本的には血抜きは鮮度保持の基本なのです。
神経抜きに関しては、真鯛など中型以上の魚に施します。
血抜きをした後、もしくは血抜きと同時進行で、行うのですが魚の眉間に穴をあけたり、もしくは鼻の穴を通してワイヤーを脊髄に通して、何度もこする方法です。
こうすることで、脊髄の神経が壊され、脳から発信される「死んだこと」を伝える信号を遮断することで、死後硬直に入るまでの時間を引き延ばす技です。
■神経抜きの動画
近年、食通の方々の間でも神経抜きが浸透し「美味しい魚の証」なんて言われることも。
ただ、ひとつ付け加えたいのは、どんな魚でも神経抜きをした方が美味しくなる、という訳ではないということです。
例えば、冬に大変美味しくなるサワラですが、以前は神経抜きをしたものが人気でしたが、現在は神経抜きをせず、血抜きをしながら氷締めにするほうが美味しいとされます。
鯖などもそうですが、神経抜きをしている間に魚体が熱を帯びるよりも、なるべく早く海水の氷で冷やしこむことが、保存性につながると分かってきたからです。
さて、死後硬直に入る前の魚は、魚体を押さえるとぷにぷにしていて、持ち上げて振るとクニュクニュと曲がります。
これがいわゆる「活きている」という状態で、魚屋ではこの状態の魚を上物と考えます。
魚は暴れるほど、ストレスを感じるほど旨味が減る。
血抜きや神経抜きについて書いてきましたが、どちらにも共通で大切なことが「素早い処置」です。
というのも、魚の旨味は、筋肉に蓄えられたエネルギー(ATP)が分解されてできると言われるからです。
暴れれば暴れるほど、この旨味の元が消費されるため、なるべく素早く処置を行うことが大切なのです。
また、ストレスでもATPは消費されると言われていて、あえてすぐに処置せずに、しばらく生け簀で休ませてストレスを取り、体力を回復させてから締める漁師さんもいるほどです。
余談ですが、人間もやっぱりストレスを溜め込むと体には良くないんだなと思いますね。
最近流行りの「熟成」は気をつけて!
魚屋としては、やっぱり「活きている」魚が一番だともいますし、釣り人は釣りたての魚が一番だという人も多いでしょう。
そんな中で、最近は「熟成魚」も密かにブームになっています。
昔から、ヒラメは次の日が旨いとか言われていて、筋肉質の魚ほど旨味の元が多い分、旨味に変化するための時間が必要と言われます。
筋肉の塊であるマグロもそうでよね。マグロなどは、寿司屋などでは4日以上寝かせてから使ったりしますから。
そんな「食べごろ」は、つまりATPやたんぱく質が、アミノ酸に分解された状態のことを言います。
食感はやや柔らかくなりますが、旨味が増えている状態。
これをさらに追及していったのが「熟成」です。
極限まで旨味を高めるため、モノによっては1週間以上寝かせることもあるとか。
寿司屋などから広まった食べ方ですが、最近は家庭で行う一般の方も多いようですが・・・ちょっとまって!
確かに、寝かせるほどに旨味は確実に増しますが、それはつまり腐敗と紙一重ということ。
寿司屋など熟成に精通した料理人は、専用の温度管理ができる冷蔵庫を使い、日に何度もドリップ(染み出た血液や水分)をふき取り、掃除します。
この手間暇をかけることで、腐敗にならないギリギリの線で熟成を行っています。
さらには、食べる段階で表面をそぎ取って捨てるなど徹底しているのです。
一人何万円もするお寿司屋さんだからこその、手間暇なのかもしれません。
もちろん、同じレベルでできれば、大丈夫でしょうが、それはそれは大変手間がかかり、本当の熟成をできている一般の方は少ないと思われます。
その点をしっかり理解して行わないと、本当に危険なので注意してください。
もし熟成を家庭でやるのであれば・・・
●必ず血抜きされた魚を使う
●日に何度かペーパーを変えて、ドリップを除去する
●食べる前に、表面を削り取る
この辺りは最低行う必要があると思います。
魚屋としては、やはり旨味を高める技法は「一夜干し」や「酢締め」が一番だと考えています。
ぜひ当店の「無添加干物」や「黄金さば寿司」もお試しください。